LOGINどこまでも広がるベージュ色の砂地の上だった。 プレイヤーたちのほとんどがボス狙いであり、その地点へマラソンをしていた。なんといっても中ボスは50点、ボスは500点である。1点の雑魚に構っている暇はない。 目の前の砂地にぽっかりと穴が空いている。 穴の中心には巨大な青いムカデが顔を出していた。堅硬な皮膚をしており、不気味にぎらぎらと光っている。ずらりと生えている長い足の先は尖っている。敵は口を大きく開き、ウミとベルフラウを威嚇した。「きしゅーっ!」 ――中ボス、鎧ムカデ:気色の悪いボスだな。:ウミちゃん、頑張って!:ボス狙いは実はハズレ。 鎧ムカデがウミをターゲットして首を伸ばす。「このっ!」 ウミが赤い剣を打ちつけて防御した。ガキンと鈍い音が鳴る。(硬いですぅっ) 敵のHPはちっとも減らなかった。 隣にいるベルフラウが声高に呼びかける。「ウミちゃん、フレイムウェポンを頂戴!」「師匠、フレイムウェポンですぅ」 ベルフラウの頭上に赤い剣のマークが灯る。 彼女が横回転しながら鎧ムカデの頭を斬りつける。鈍い音が立て続けに鳴った。だけど敵のHPはあまり削れていない。物理耐性が高いようだ。「きしゅーっ!」 鎧ムカデは怒ったような声を上げ、ベルフラウをターゲットする。顔を大きく振ってムチのように叩きつけた。ベルフラウが両手のダガーで受け止める。 轟音。「ぐうっ」 彼女が後方に吹き飛ばされた。だが転ばない。砂地に足をすらせて止まった。「師匠!」「ウミちゃん、大丈夫よ!」 ベルフラウがすぐに戦線に復帰する。(ゆっくり倒せば、大丈夫ですぅ) 敵の装甲は硬いが無敵ではない。コンスタントに攻撃を当てれば勝てると思った。 ――思ったのだが。 刹那。「エクスプロージョン!」「アイシク
――モンスター討伐競争クエスト、入賞する 翌日の午後一時前。 ラグナシアの北出口だった。そのスタートラインには100人以上のプレイヤーたちが並んでいた。他プレイヤーのほとんどがラグナシアの民族衣装を着ている。暑さデバフ対策だった。競技開始を今か今かと待ち望んでいる。好スタートを切るために気を張っていた。ウミの胸が緊張でバクバクと鼓動を打っている。 競技時間はたったの二時間である。その間に多くの点数を稼いだペアの勝利だ。 眼前に広がっているのはひたすらに砂漠である。遠くには砂丘も見える。雑魚モンスターが歩き回っていた。これから一斉に狩られることを予期せず、のんびりとした様子である。 プレイヤーたちの鼻息は荒い。目を血走らせて武器を構えている者もいた。もしかしたら、この後プレイヤー同士で乱闘が起こるのかもしれない。PKにだけは気をつけたいところだ。 ――ちなみに、競技で勝った賞金は造船の費用に回すことに決まっている。 隣にいるトウマはのんきに腕組みをしていた。「ウミ、ベルフラウ、競技が始まったらボスのところまでダッシュするんだぞ」 昨日の探索により、ボスの位置はすでに把握していた。まず中ボスを一体倒し、その先にいるボスを二体討伐する予定である。「乗り物が欲しいわよね」 ベルフラウが周囲を眺めてつぶやく。 プレイヤーたちの中には動物に乗っている者も多い。動物の種類は、にわとり、ブタ、狼、羊、馬、様々だった。 少し離れたところにいるニキたちがキャルル丸にまたがっている。ニキ、晴恋、アイギスの三人を乗せてキャルル丸は凜々しい顔つきをしていた。競技が始まったら突っ走るつもりなのだろう。だけどその背中は狭そうだった。晴恋はニキに密着してぎゅっと抱きついており、アイギスは晴恋に同じようにしている。:キャルル丸は大変だな。:三人は定員オーバーw:ぎりぎり何とかw ウミは怖々と尻尾を揺らした。「ご主人様、参加人数が多いですぅ。果たして、ボスを上手く狩れるでしょうか?」「やるしかな
午後一番。 いま、ラグナシアの町長の家へみんなで向かっていた。晴恋が衣装下着の作成に成功したのである。それを渡しに行くのだ。 路傍には一列に大きなサボテンが生えている。不思議な形である。トゲトゲとしており、頭にはオレンジ色の花が咲いているものもあった。しげしげと眺めて、ウミは隣にいるアイギスに尋ねる。「アイちゃん、あの植物、形が変ですぅ」「本当」「どうしてトゲがあるのでしょうか?」「僕にも分からない」 二人は首をかしげつつ歩を進める。モフモフとした尻尾が仲良く揺れていた。:サボテンのトゲは外敵から身を守るためですよ。:ラクダに食べられますけどね。:トゲの意味ないじゃんw アイギスの右手首にはいつの間にか緑色のブレスレットがはまっている。ニキからプレゼントされたらしい。 午前中、トウマとウミとベルフラウの三人は砂漠を探索し、ボスの出現ポイントを二つ見つけていた。主人の考えでは雑魚よりもボスを倒した方が、効率が良いらしい。何ともトウマらしい考え方だと思った。 朧月とトワのペアに勝つためにも、高得点をたたき出さなければいけない。 町長の家はオアシスの隣だった。レンガ造りの大豪邸である。普通の民家を三軒並べたほどの大きさだった。庭にはナツメヤシ以外にも木々が植えられていた。オアシスから水が流れてきており、ため池を作っている。これなら家にいても水に困らない。すぐ近くには畑もあった。 地図を片手に先頭を歩いていたベルフラウが「ここね」と言って玄関へと案内する。みんながその背中に続いた。ベルフラウと晴恋が並び、赤茶けた扉をノックする。すぐに中から返事があった。扉が開き、木製の杖をついたティオが顔を見せる。「あら、貴方たち、衣装はもう出来たのかい?」「はい。何とか出来ました」 晴恋が答えて、ステータス画面から五枚のスキンカードを差し出す。金色の綺麗なカードだ。 ティオは受け取って、にんまりと口の端をつり上げた。「おお、ありがとう! 確かにAランクだね。こりゃあお礼をしなきゃいけないね! お茶を用意するからさ。さあ、上がって上がって」「「ありがとうございます」」 みんながそれぞれ返事をして、大豪邸に上がらせてもらった。扉の前で配信ドローンが停止する。キャルル丸は立ち入り禁止であり、玄関のところで伏せった。 リビングに案内されて、扇状を描
晴恋は歌っていた。 宿屋の一室に美しい歌声が響き渡る。隣室からの壁ドンは今のところない。 晴恋【裁縫評価B】『セクシーバレンタインのスキンカード』を獲得 彼女は一生懸命歌うのだが、何度試しても作成されるのはセクシーバレンタインである。Aランクは出来ない。(……何が悪いんだろう) 大体、曲が悪いのだ。曲名『恋わずらい』。セクシーな曲調であり、アップダウンが激しい。そして歌詞は少し下品だ。全然好みの歌じゃなかった。せめてもっと普通のロックだったならと思ってしまう。 自分は歌のプロではない。どこかで習ったこともなかった。だけどカラオケの採点基準は知っている。ビブラート、ロングトーン、しゃくり、こぶし、それらを上手に行うことで点数が加算されるはずである。言うは容易いが実践は難しい。素人が一日でできるようになるものではなかった。 はあ……。(これは私には無理ですね) とは思いつつも、晴恋は再びお手本をタップする。目をつむった。あごでリズムを刻みながら静かに聴いた。全てコピーできるように、歌声を細かく記憶していく。 一方その頃。 ニキとキャルル丸、アイギスは一緒に町の外へ出ていた。 モンスター討伐競争の練習をするため、チームごとに分かれて狩りの練習である。 だだっぴろい砂漠の砂地だった。遠くには三角形をした砂丘が見える。太陽の光を砂地がじりじりと照り返していた。ソフトクリームの効果で暑さを感じない。乾燥した風が吹いており、ニキのソフトモヒカンがさわさわと揺れる。キャルル丸が砂地をのしのしと踏みしめていた。 辺りにはジェノスという小さな恐竜モンスターがたくさん歩いていた。身体は青く、獰猛な牙を生やしている。 ニキとアイギスの間に会話はない。これまで、たわいのない話をしたことは一度もない。少し気まずかった。(この時を待っていたさ!) ニキはキャルル丸から飛び降りて、アイギスを振り返る。「アイ、ここで狩りを
晴恋は頭を抱えていた。 これからセクシーな下着を作らなければいけない。 オアシスの前の砂地だった。家族で水浴びをする町民も現われており、下着姿で水に浸かっている光景がある。水面から肩を出して朗らかに会話をしている。子供たちの顔には清々しい笑顔が浮かんでいた。水際ではラクダがのんびりとした顔つきで伏せっている。子供が「グーちゃんも入ればいいのに」と声を上げた。どうやらあのラクダの名前はグーちゃんのようだ。 ラグナシアの町長、ティオが晴恋に衣装のデザインパターンを渡す。それは一枚の羊皮紙だった。ステータス画面に入れると裁縫の項目に『衣装下着』が追加される。他にも、裁縫をするための素材を受け取った。念のため30着ぶんの素材をもらうことにした。低評価が出た場合、変な衣装下着が作成される恐れがあるからだ。 ティオはにんまりと笑みを浮かべて話した。「晴恋さんっていうのかい。貴方、衣装下着のランクはAでお願いするね」「え、Aですか? それはちょっと難しいかもしれないです!」「そこを何とか頼めるかい? もしも裁縫に失敗したら、素材はいくらでもあげるからね。何とか頼むよ」「そ、そんなこと言われましてもぉぉ」 両手で口元を押さえて嘆息する。 ティオは「お願いしたよ」と言って晴恋の肩をぽんと叩いた。トウマに一礼をして去っていく。五人のダンサーたちもその背中に続いた。「ふわあうぅぅぅぅ」 晴恋は涙目になってしゃがみ込む。:裁縫って難しいの?:カラオケのミニゲームじゃん?:A評価の衣装下着って、めちゃくちゃ防御力が高いんじゃ? ベルフラウが隣に来て、晴恋の背中を優しく撫でた。「晴恋、頑張るしかないわ」「晴恋さん、頑張りましょう」「晴恋、頑張る」 ウミとアイギスも拳を握って応援してくれている。他のみんなも次々に激励の言葉をかけてくれた。 人の気も知らずにトウマが口を開く。「晴恋。とりあえず、歌ってみたらどうだ?」「だんちょー
朝はみんなでバフ料理を食べるのが日課だった。 ラグナシアのオアシスの前。青々とした広い水面をナツメヤシの木々がぐるっと囲んでいる。水を汲みに来た子供が頭に壺を載せている姿があった。一方ではラクダががぶがぶと水を飲んでいる。口をもごもごと動かしており、嬉しそうに目を細めている。ラクダが小さな車を引いている光景もあった。車の荷台にはタルが積まれている。飼い主のおじいさんがオアシスからタルに水を汲んでいた。 晴恋たちは暑い暑いとつぶやきながらカレーライスを食べていた。満腹度を回復させるためには食べなければいけない。ベルフラウの作ってくれるカレーライスはジューシーなカツが載っかっており、カレーには濃厚なコクがある。スパイスもよく利いている。大変美味いのだが、熱すぎだった。どうしてかアイギスは二杯目を食べている。この使い魔はかなりの食いしん坊だ。:この気温でカレーライスはきつそう。:アイちゃんは余裕みたいだね。:キャルル丸も食うのが早いぞw 晴恋の隣に座っているニキがつぶやいた。「こりゃあ汗が噴き出るさ」「ニキさん、頑張って食べましょう。ソフトクリームが待っていますよ?」 そうは言うものの、晴恋は半分食べ終えた時点でもうお腹いっぱいだった。それでも残すのはベルフラウに悪い。頑張ってお腹に詰め込んでいく。「晴恋、全部食べられるかい?」「……ちょっとキツいです」「残り、食べてやろうか?」「あ、お願いしても良いですか?」「任せろって!」 ニキが自分のカレーライスをガツガツと食べる。完食すると食器はすぐに消えた。そして今度は晴恋のカレーライスを受け取り、もりもりと食べる。(助かりましたぁ) さすがにもう食べられない。「みんな、これ、ソフトクリームだから」 ベルフラウが製菓カードを配ってくれる。一人五枚ずつあった。効果時間は2時間なので、これだけあれば今日一日は持つ。 晴恋は微笑を浮かべて受け取った。「ありがとう、ベルち
村の広場。 トウマたちは木製のベンチに並んで腰掛けていた。 ゲーム内は昼間であり太陽が出ている。近くにある桜の木が花々を満開に咲き誇らせていた。そよ風が吹いて、花びらがチラチラと地面を舞う。木枝が揺れる音がした。 大きめの梅おにぎりを、ウミが両手で持ってむしゃむしゃと食べている。モフモフと尻尾を振っており、ご機嫌のようだ。満面の笑みを浮かべている。 「美味しいですぅ、美味しいですぅ」「そりゃあ良かった」「ご主人様、ありがとうございます」「味わって食えよ」 梅おにぎり、200ヴァル。 道具屋で買ってきたものだった。手痛い出費である。 トウマは広場の光景を眺めた。中心には噴
ゴーレムを倒し終えると、ノーファンの村へと二人は転移した。 辺りには木造りの民家が立ち並んでいる。遠くを見ると森や山があった。地面は土。その道路で、トウマとウミは隣り合って佇んでいた。 「普通の村だな」「そのようですね」「とりあえず、狩り場に行くついでに、村を見て回ってみるか」「はぁい!」 二人で並んで歩き出す。 すぐに他プレイヤーの姿があった。 横切っていく通行人。その顔色は明らかに沈んでいた。他にも座り込んでいる女性がいた。壁にもたれかかっている男。空を見上げている魔法使いふう。誰もが死んだ魚のような目をしている。 異変に気づいたウミが声をひそめてつぶやく。不安に揺れ
ロッジのような一室。木造りの天井と丸太で出来た壁。そこのベッドにユウマは腰掛けていた。 ここがゲームの中らしい。 顔の前にはステータス画面のような半透明の青いボードが浮かんでいる。 システム音声が響いた。 「プレイヤー様。VALORIUMオンラインの世界へようこそ!」 「あ、はい」 「まず、プレイヤー名を決めてください」 「トウマで頼む」 彼の本名は冬野悠馬である。 「トウマ、その名前は使用できます」 「良かった」 「次にゲーム内職業を選んでください」 画面には様々な種類のジョブが並んだ。 そして右上には特別コード入力の文字。そこをタップして、暗記し
ログネストの玄関は広い空間になっている。背の高い天井。タイル敷きの綺麗な床。 しかし、空気は息苦しいほど重かった。 今も、通路からドリンクを汲みに来た利用客がある。ちらりと振り返ると、寝ていないような疲れた顔をしていた。 ふと隣には男性店員に連れられた太り気味の客がやってきた。太り気味の客は男性店員に頭を下げて大声を出す。 「待ってください! あと五時間、五時間プレイできれば、ヴァルを払えそうなんです!」「お客様、すでに退室の時間でございます」 (……ヴァル?) 背中に鳥肌が立つのを感じながらユウマはカウンターに向き直る。 茶色い受付台を挟んで、ユウマの前には女性店員が立って







